2001/8/8
男子1万mは史上稀に見る“揺さぶりレース”
トップ選手&高岡の400 m毎の通過タイム一覧表から
ゲブルセラシエの敗因を探る


 ミックスドゾーンに引き揚げてきた高岡寿成(カネボウ)が証言してくれた。
「これまで経験した中で、ペースの変化が一番激しかったレースです。初めてこういう大会に参加したときもすごかったと感じましたが、今回が一番です」
 高岡といえば、日本を代表するトラックランナーで、国際大会の経験は日本選手歴代ナンバーワンの選手。その高岡の話だけに説得力がある。

距離 先頭通過 400m毎 1000m毎 高岡 400m毎 1000m毎
400 1.04.12 64.12 1.05.3 65.3
800 2.13.80 69.68 2.15.2 69.9
1000 2.50.25 2.50.25 2.51.8 2.51.8
1200 3.24.12 70.32 3.26.5 71.3
1600 4.29.33 65.21 4.31.6 65.1
2000 5.37.70 68.37 2.47.45 5.39.3 67.7 2.48.1
2400 6.45.53 67.83 6.47.4 68.1
2800 7.56.98 71.55 7.58.6 71.2
3000 8.33.73 2.56.03 8.34.4 2.55.1
3200 9.08.63 71.65 9.08.7 70.1
3600 10.16.83 68.20 10.18.0 69.3
4000 11.22.31 65.48 2.48.58 11.23.5 65.5 2.49.1
4400 12.31.31 69.00 12.32.9 69.4
4800 13.40.89 69.58 13.42.4 69.5
5000 14.15.11 2.53.80 14.15.4 2.51.9
5200 14.49.01 68.12 14.49.2 66.8
5600 15.54.00 64.99 15.56.4 67.2
6000 17.02.04 68.04 2.46.93 17.03.1 66.7 2.47.7
6400 18.10.97 68.93 18.12.0 68.9
6800 19.14.73 63.76 19.17.6 65.6
7000 19.48.95 2.46.91 19.50.0 2.46.9
7200 20.22.42 67.69 20.24.4 66.8
7600 21.27.94 65.52 21.29.9 65.5
8000 22.34.16 66.22 2.45.21 22.37.6 67.7 2.47.6
8400 23.39.77 65.61 23.45.0 67.4
8800 24.45.05 65.28 24.54.3 69.3
9000 25.17.24 2.43.08 25.29.8 2.42.2
9200 25.51.49 66.44 26.03.7 69.4
9600 26.57.28 65.79 27.11.4 67.7
10000 27.53.25 55.97 2.36.01 28.13.99 62.6 2.44.2
※トップ選手の通過は、タイマーが止まったタイム。高岡は手元で計測したもの

 そのレースを演出したのはケニア勢だ。途中、ニジガマ(ブルンジ)やロンセロ(スペイン)などもトップに立ったが、3600mではコリール、5400mではコスゲイが大きくペースアップ。優勝したカマティも含め、終盤も何度か、ケニア勢が代わる代わる先頭に立ってペースの上げ下げを行なった。これらは全て、対ゲブルセラシエ(エチオピア)用の作戦だった。
 1万mの行われる前、ケニア長距離のヘッドコーチは、「何かしら仕掛けをするから、楽しみにしてほしい」と発言したという。ゲブルセラシエは世界選手権4連勝中、オリンピック2連勝中のランナー。世界記録も5000mと1万mの2種目で保持している。世界記録を持っているということは、前半からのハイペースに強いということ。なおかつ、ラストの“キック”も史上最強との定評がある。実際、95年のイエテボリ世界選手権1万mでは、ラスト200 mを25秒1で上がっている。
 ハイペースもダメ、ラスト勝負となるスローペースもダメとなれば、残る作戦はただ1つ。何度もペースの上げ下げを仕掛けることだ。ケニア関係者は「いつもクロスカントリーでアップダウンにを練習している」と証言する。
 その点、ゲブルセラシエはクロカンはやや不得手。実際、世界クロスカントリー選手権では、ケニアの集団戦法の前にタイトルを取れていないのだ。
 今大会の1万mのペース乱高下の背景には、こういった事情があった。おかげで、高岡の日本記録更新は実現しなかった。