2015/10/5 わかやま国体最終日(5日目)前日
成年男子800 m展望スペシャル
@高校まで野球部の山口大・野村が予選1組1位
コーチは3歳違いの慶大出身・笹村さん


 異色選手ではあるが、国体らしい話題があった。

 成年男子800 m予選1組は最後の直線で野村直己(山口大3年)が抜け出し、1位(1分52秒34)で通過。昨年の日本インカレ、今年の学生個人選手権優勝の櫻井大介(京大4年)を抑えた。
「位置取りが下手で上手く前に出られず、どうなるかわかりませんでした」と本人は反省するが、第4コーナーの出口付近では野村自身も「行けるな」と感じた。最後の直線の走りには余裕も感じられた。
「決勝に残れたので、インカレのときみたいに9人にならなければ、山口に1点を入れられます」と、ホッとした表情を見せた。

 昨年の国体でもすでに7位に入賞し、今年の日本インカレでも5位に入った実績を持つ。決勝進出自体は驚くことではないが、野村が高校(山口高)まで野球部だったこと、コーチが3歳差の笹村直也さんであることが異彩を放っている。
 笹村さんは山口高の先輩で、3年時に国体少年共通800 mに優勝した実績を持つ。慶大ではタイトル獲得こそなかったが、入賞の常連だった。

 年齢差の小さい選手とコーチでは、同じ800 mの川元奨(スズキ浜松AC)と松井一樹コーチが、日大の2学年差の先輩後輩で知られている。この2人は同じレースを何10回と走っている。
 野村と笹村さんは、野村が大学1年時に1回だけ同じレースを走っているが、当時は力の差が大きかったこともあり、野村の方は覚えているが、笹村さんの記憶は明確でないという。
 だが、同じ高校の後輩がどんどんタイムを伸ばしている。昨年一度、会って話をする機会があり、今年の春からは定期的にアドバイスをするようになった。笹村さんは昨年から新聞記者になって現在静岡支局勤務だが、今年から山口陸協の中距離強化担当者となり、8月からは野村のメニューも立てるようになった。
 笹村さんの慶大でのトレーニングは、先輩の横田真人(慶大→富士通)の影響もあり、負荷の大きいメニューをこなしていた。野村のために組んでいるメニューも同じ傾向になるが、笹村さんは「僕は短距離出身でスピードがベースになりますが、野村は1500mなども走っていて最後のキレで勝負するタイプ。本数を多くして、若干ペースを落としています」と違いを説明した。

 ただ、練習に直接立ち会う機会は本当に少ない。2人のコミュニケーション能力がお互いに高くなければ成功はおぼつかないだろう。
 笹村さんがどこまで、野村のことを理解してメニューを立てられているか。そのメニューを1人で行う野村が、どこまで強い意思で行うことができ、場合によっては自分の体調を見て臨機応変に変更できているか。
 今後のことは未知数だが、国体の予選前日のメニューを2人は変更している。
 野村に日本インカレ後の状態を質問すると、「不思議なんです」と、次のように話してくれた。
「可もなく不可もなく、という練習で和歌山に入りましたが、昨日は状態が良くありませんでした。いつもだったら400 mで1周目の入りを確認するのですが、120mに変更しました」
 それで予選がしっかり走れてしまった、というニュアンスの話しぶりだった。
 笹村さんは仕事の都合で和歌山入りが予選2日前の深夜になった。翌日(予選前日)に野村の話を聞いたりアップを見て、400 mを120m2本に変更しようと野村に提案した。
「日本インカレ後は疲労も出ていたので、そんなに練習をさせていません。前日刺激も無理して400 mをやるよりも、入りの確認だけしておけばいいのでは、と判断して120m2本に変更しようと言いました。野村も『わかりました』と、納得した様子でした」

 野村は決勝の目標を「昨年の国体が7位だったので、それ以上の順位を。できれば、日本インカレの5位以上を」と話す。笹村さんは「できればビッグ2(横田と川元)の次に」と期待する。野村は横田とも川元とも、同じレースを走るのは初めてだ。
 笹村さんにとって横田は慶大の先輩で、1学年後輩の川元とも、何度も同じレースを走っている。引退してわずか2年後に、自分が指導する選手がかつての選手仲間に戦いを挑む珍しいケースとなる。

 野村と笹村コーチが、コンビで臨む初の国体でどういう結果を残すのか。新たなスタイルで強化に取り組む3歳差コンビの出発点として、和歌山国体800 mは注目される。

A日本記録保持者・川元に完全復活の兆し
体重3kg減と1000mTTの大幅自己新


 北京世界陸上代表を逃した川元奨(スズキ浜松AC)に、復調の兆しが見られる。成年男子800 m予選3組で1分54秒31。スローペースのためタイムは良くなかったが、前回優勝の田中匠瑛(盛岡市役所)に0.63秒差をつけた。ラストの強さは、“さすが川元”と再認識させる走りだった。
「誰も来なかったのでどうしたんだと一瞬焦りましたが、得意のラスト勝負は問題ありませんでした。明日の決勝は横田(真人)さんとの勝負になると思いますが、レースプランは特にありません。強いて挙げれば“打倒・横田”がプランです」

 シーズン前半は北京世界陸上標準記録(1分46秒00。川元が昨年出した日本記録は1分45秒75)に挑んだが、1分46秒52と惜しくも届かなかった。
 昨年後半の故障が長引き、今年2月まで走る練習ができなかった。体重が5kg増えて73kgになってしまったという。川元は食べたものの消化吸収率が良く、体重が落ちにくいタイプである。ベスト体重は68kgだが、今シーズン前半はまだ71kgあった。それを夏に練習しながら、68kgに戻すことに成功している。

 どんな練習を頑張ったのか? という問いには「あまり覚えていませんが、一番は1000mのタイムトライアルかな」と川元。菅平で合宿した最終日に2分22秒で走った。それまでの1000mタイムトライアルのベストは2分28秒で、6秒も短縮したという。さらに、「何かの試合」の前に行ったときは2分20秒で走った。
 松井一樹コーチによると川元クラスであれば、2分17〜18秒で走ってもおかしくないので、それほど高いレベルではないという。過去にこのメニューを、それほど追い込んで行っていなかった。さらにこの夏は、800 mまで1分52秒のペースメーカーをつけて練習を行ったという。
 とはいえ、川元のなかでは大幅なタイム向上であるのは事実。1つの練習だけで強くなるわけではないが、川元が状態を上げてきているのは間違いない。

 国体は勝負優先のレースになるため、タイムはどうなるかわからない。それでも、「大会記録(1分48秒28=横田・2012年)はそれほど高くないので」と言う。多少のスローペースでもそのくらいではまとめてみせる。


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