日本選手権2013・日付毎展望
第2日(6月8日)編

●女子三段跳 全種目エントリーリスト
 吉田文代(→)が静岡を13m02(+1.5)で制し、2年連続9回目の優勝に一歩進んだ。吉田は4月から高校の教員。フルタイムだった成田空港時代よりさらに練習時間が減り、体力も落ちている。その状態でも「経験をフル活用」して2年ぶりの13m台を跳んだ。「日本選手権はやれることをやって、その結果で勝てれば。でも、やるからにはレベルを上げたい」。静岡では山根愛以(→)と三澤涼子が12m90台(→)。一昨年の日本選手権優勝の竹田小百合(↓)と前田和香(↓)は不調だったが優勝候補からは外せない。勝負の行方はわからない。
=陸上競技マガジン6月号記事。以下同
■モスクワ世界陸上標準記録 14.40/14.20
■突破者 なし
 吉田が東日本実業団で13m08(+1.6)を跳び、優勝にまた一歩近づいた。今季日本リスト2位は静岡国際の三澤、3位は3月にシドニーで12m91を跳んだ山根。注目は大学生2選手。筑波大1年生の剣持早紀で4月の12m90をマークした。コントロールテストの値などが高く、跳躍の強化関係者から期待されている選手。その剣持に関東インカレで勝った宮坂楓(横浜国大)は、走幅跳でも6m22(−1.7)を関東インカレで記録(2位)して注目されている。低迷する種目のカンフル剤となってほしい。
 期待優勝記録は吉田の持つ13m50の日本歴代2位。難しいが目指してほしいところ。


●女子砲丸投 全種目エントリーリスト
 白井裕紀子(→)と横溝千明(↑)の2強対決。一昨年の国体で2人そろって自己新を投げ合った時は、白井が15m47、横溝が15m37で10cm差だった。ところが昨年は白井が16m00と大きく記録を伸ばしたのに対し、横溝は15m02に記録を落とした。昨年まで横溝は、一度も白井に勝ったことがなかった。初勝利が今年の兵庫で、15m44の自己新で白井に10cm差をつけた。GGは白井が15m53で雪辱。日本選手権でも本命だが、横溝は「大先輩を若い世代の自分が追い越したい」と目を輝かせる。2人とも16m00のアジア選手権派遣設定記録が目標か。
■モスクワ世界陸上標準記録 18.30/17.20
■突破者 なし
 上位陣の顔ぶれは、上記記事からあまり変化はなく、東日本実業団で茂山千尋が14m57を投げたのと、関東インカレで松田昌己が14m48を投げたくらい。高校時代に15m04を投げている松田が立て直してきた。
 期待優勝記録は16m01。白井裕紀子の自己記録とアジア選手権派遣設定記録の16m00を上回ってほしい。


◆男子円盤投 全種目エントリーリスト
 和歌山で58m84の日本歴代3位を投げた堤雄司(↑)が2連覇に近い位置にいる。関係者の評価も高く、選手仲間からも「風頼みでない“走る円盤”を投げられる」という声が出るほど。対抗するのは日本歴代2位記録保持者の畑山茂雄(↓)。和歌山では53m43に終わったが、年齢的にピークが長く続くなくなり「上げたいところをグッと抑えた」と言う。「冬期に変えた技術と体力的なところが合えば面白い結果になる」。和歌山で55m18と自己記録に迫った蓬田和正(↑)、昨年3位の小林志郎(→)も60m候補。国士大の後輩の堤を止められるか。
■モスクワ世界陸上標準記録 66.00/64.00
■突破者 なし
 東日本実業団は畑山が52m93で蓬田が51m29。上記記事の状況は特に変わっていない。期待優勝記録はオリンピック種目最古の日本記録。1979年に出た60m22の更新。


●女子棒高跳 全種目エントリーリスト
 我孫子智美(↓)の自身の日本記録(4m40)更新、B標準への挑戦が一番の見どころ。2月に4m33の室内日本新と好調だったが、織田記念は4m00で2位と敗れた。「身体はかなり動いているのに、跳躍になるとまとまらない」。冬期でウエイトで挙げられる重量が上がり、体操でもできる動きが増えた。ポールも昨年より硬いものが使えるようになっている。「4m50を跳ぶベースはできている」。織田記念は竜田夏苗(↑)が4m00で優勝したが、昨年4m10を跳んでいる住石智子(↓)、青島綾子(↓)、仲田愛(↓)らと2位争いは横一線だ。
■モスクワ世界陸上標準記録 4.60/4.50
■突破者 なし
 関西実業団で我孫子智美が4m21。自身のブログに以下のように記している。
GW中に取り組んでたことは、まぁまぁできたかな、
という感じです。
織田の時よりは良くなったと思います。
カタチになってきた。
あともう少し!です。

 期待優勝記録はモスクワ世界陸上B標準。
 竜田と仲田が4月に4m10跳んでいる。


◆男子走幅跳 全種目エントリーリスト
 前回優勝者vs.モンテローザコンビの戦いか。織田記念は助走途中に風向きが変わる悪コンディション。前回日本選手権優勝の荒川大輔(→)が7m70(+1.6)で1位。7m68(+2.1)の猿山力也、7m66(−0.4)の大岩雄飛(↑)のモンテローザ2選手が、日本選手権で荒川に挑戦する。大岩が自己記録に最も近く勢いが感じられる。昨年8mを記録した下野伸一郎(→)もGGで荒川に勝った。荒川と猿山のベテラン2選手vs.大岩&下野の実業団1年目コンビの構図ともいえる。菅井洋平(↓)は大腿に違和感があり織田記念を欠場した
■モスクワ世界陸上標準記録 8.25/8.10
■突破者 なし
 今季リストは以下の通り。
1)7.76 0.8 猿山力也 84 (モンテローザ・東京)4 4.20 マウントサックリレー
2)7.74 0.6 毛呂泰紘 94Jr(順 大1千葉)1 5.25 関東学生
3)7.70 1.2 高田貴明 93 (国武大1+北海)1 3.23 国武大競技会
3)7.70 1.7 大岩雄飛 91 (モンテローザ・東京)1 4.13筑波大競技会
3)7.70 1.6 荒川大輔 81 (大阪ガス近畿・大阪)1 4.29 織田記念
6)7.69 -1.2 嶺村鴻汰 92 (筑波大3長野)2 5.25 横浜国際 関東学生
7)i7.67 菅井洋平 85 (ミズノ・群馬)1OP 2.02 日本ジュニア室内大阪
7)7.67 -0.8 高政知也 93 (順 大 2千葉)3 5.25 横浜国際 関東学生
9)7.65 0.1 太田 朗 90 (ライフメッセ・長野)1 5.12 中部実業団
10)7.61 1.5 下野伸一郎 90(九電工・福岡)1 4.06 福岡大 九州学生競技会
10)7.61 0.1 小室 慧 93(慶 大2神奈)1 4.07 国 立 東京六大学

 「この選手だ」と言える選手がいない。水戸招待で学生勢を抑え、東日本実業団で猿山力也を抑えた大岩雄飛を優勝予想したが、決め手があったわけではない。
 史上まれに見る混戦模様を呈しているが、終わってみたら「2013年はこの選手が強かったよね」と言える結果になっているかもしれない。そう言われる為には、8mジャンプは最低限必要だ。


◆男子やり投 全種目エントリーリスト
 村上幸史(派↑)のV奪回か、ディーン元気(↓)の2連覇か? 村上が織田記念で85m96と日本歴代2位、GGでも81m16で外国勢を抑えた。前回ディーンに8cm差で敗れて日本選手権の連勝が12でストップしたが、日本一の座に返り咲こうとしている。一方のディーンは初戦の東京六大学こそ80m15と好調な出だしを見せたが、織田記念、GGと76m台。「やり投は難しい」とスランプに陥っている。崩れてしまった動きをどう立て直してくるかが注目される。新井涼平(↑)がGGでファウルながら80を越える投てきを見せた。B標準も期待できる。
■モスクワ世界陸上標準記録 83.50/81.00
■突破者 1人
村上幸史 A・派 85.96 2013/4/29 織田幹雄記念国際
81.16 2013/5/5 ゴールデングランプリ東京
 ディーン元気であっても、B標準を突破しないことには代表に選ばれない。仮に突破できなかったら、アジア選手権優勝でA標準資格を得られるが、そこまで代表入りを引き延ばすのは避けたい。
 関東インカレのディーンは77m98。不調からの出口が見つかったのかどうか。昨日400mHで予選落ちした舘野哲也が話していたが、細かい故障でも、メンタル面に影響を及ぼすことがある。陸上競技は少しの気持ちの違いが、少しの動きの違いにつながり、記録が大きく変わってくる。
 今季のディーンは夏に合わせる予定だが、それがどこかで気持ちにブレーキをかけている可能性もある。日本選手権という舞台が、気持ちのブレーキを外す要因となってくれるかもしれない。


◆男子400m
 8連勝中の金丸祐三(↓)が窮地に立たされている。静岡で46秒07で5位。前半から飛ばす展開に挑戦しているが後半が持たない。アメリカで2カ月練習し、動きを変更している真っ最中だが「何がダメなのかわからない。今年が一番苦しい」。今回勝つことができたら、殻を破るキッカケになるかもしれない。V候補筆頭は静岡1位の中野弘幸(↑)。小学校の教員となって練習時間は激減したが45秒62の自己新。ラストの直線の追い上げに注目したい。静岡では渡邉和也(↑)、石塚祐輔(↑)が初の45秒台で走った。45秒60のB標準を切りたい。
■モスクワ世界陸上標準記録 45.28/45.60
■突破者 なし
1)45.62 中野 弘幸 88 (愛知陸協 ・愛知)1r3 5.03 袋 井 静岡国際
2)45.71 渡辺 和也 88 (チームミズノ・宮城)1r2 5.03 袋 井 静岡国際
3)45.87 石塚 祐輔 87 (ミズノ ・茨城)2r3 5.03 袋 井 静岡国際
4)46.00 木村 淳 91 (中 大 4沖縄)2r2 5.03 袋 井 静岡国際
5)46.07 金丸 祐三 87 (大塚製薬 ・徳島)4r3 5.03 袋 井 静岡国際
6)46.17 山崎 謙吾 92 (日 大 3埼玉)3r2 5.03 袋 井 静岡国際
7)46.25 広瀬 英行 89 (富士通 ・神奈)1r1 5.03 袋 井 静岡国際
8)46.56 木村 和史 93 (環太平洋大 3香川)4r2 5.03 袋 井 静岡国際
9)46.64 近藤 崇裕 91 (筑波大 4三重)2r1 5.03 袋 井 静岡国際
10)46.80 加藤 良祐 93 (豊田高専 S1愛知)1 5.18 瑞 穂 東海学生

 昨日の予選は中野弘幸46秒15、石塚祐輔47秒02、金丸祐三46秒57が各組のトップ。1組は中野と廣瀬が同タイムで、2組では前半を抑えた渡邉和也が後半に追い上げて0.19秒差。3組は関東インカレ優勝の山崎謙吾が46秒98。
 金丸祐三の連勝がストップするかどうかが最大の焦点。中野は終盤で相変わらずの強さを見せたが、練習時間が極端に少なくなっている。「日本選手権も半分あきらめた」というコメントもあったほど。2日連続のレースがどう影響するか。
 廣瀬は「絶対に自己ベストが出る感覚」があるという。
 タイムは良くなかったが、石塚が楽に走っていたのが印象に残った。「金丸の連勝をみんなで止めたい気持ちはありますが、世界陸上の年なので、世界に勝負にしに行きたい。そのための走りを」
 石塚は昨年はフライングで失格。「日本選手権に戻ってこられた喜びをかみしめた」。こういう心境のときは強いかもしれない。


●女子400m
 学生2選手と日本記録保持者の争いか。静岡は鳥原早貴(→)が54秒33で1位、新宮美歩(→)が54秒63で2位。鳥原はケガで2カ月近く冬期練習開始が遅れたことを考えると、今後タイムを縮めそうだ。新宮はこの冬、スピード主体のトレーニングを積んだ。その流れでも織田記念800mで自己2番目の2分05秒95。「52秒台の準備はしてきました」。日本記録保持者の千葉麻美(↓)は静岡で55秒36だったが4月のマウントサックでは54秒32。出産後2シーズンめとなり復調してきている。高校生の大木彩夏(?)が参戦すると刺激が入りそうだ。
■モスクワ世界陸上標準記録 51.55/52.35
■突破者 なし
 昨日の予選で様相ががらっと変わった。予選は2組とも浜松市立高の高校生がトップ。1組の杉浦はる香53秒37の高校新をマークした。1組2位にも高校生の大木彩夏が53秒61の高校歴代5位。高校生の上位独占も可能性が出てきた。
 だが、実業団、学生勢もみずみす高校生に名をなさしめることはないだろう。
 青木沙弥佳は54秒69だったが、400 mH予選の2時間後に走ったタイム。静岡国際、関東インカレ優勝の鳥原早貴も安定している。52秒台の優勝記録は実業団、学生選手に期待したい数字だ。


●100 mH
 木村文子(↑)の3連勝が有力になっている。織田記念では2位に0.26秒、GGでは0.15秒差をつけた。記録も13秒02(+2.4)と13秒20(−1.2)で、12秒台突入を期待できるものだった。両大会とも(日本人)2位は紫村仁美(→)で3位は相馬絵里子(↑)。昨年13秒15の学生新を出した紫村はケガの影響で、冬期は走るトレーニングができなかったが、体幹を重点的に鍛えた。「まだまだ上がっている途中。13秒を切ってモスクワに出場した」と意欲を見せる。相馬は自己記録を、昨年までの13秒55から13秒34へと一気に縮めてきた。
■モスクワ世界陸上標準記録 12.94/13.10
■突破者 なし
 予選で紫村仁美が13秒16(+0.3)と自己記録に0.01秒と迫る快走。2位とのタイム差を見ても強いな、という印象。木村文子は13秒24。向かい風0.6mを考えると悪くないタイム。木村優位は変わらないが、独走の雰囲気はなくなってきた。優勝記録が12秒台の可能性も高くなった。


◆男子100m
 織田記念1、2位の桐生祥秀(派↑)と山縣亮太(A↑)がV候補の双璧。焦点は4連勝中の江里口匡史(→)がどう戦うか。江里口は織田では桐生に0.12秒、ゴールデングランプリ(以下GG)も0.10秒差。中盤以降はそれほど差が広がっていない。「トップスピードになるまでの差を何とかしたい」。3人とも加速局面の強さが武器。60m付近までにリードした選手が逃げ切る可能性が高いが、終盤で走りが崩れないこともVへの条件。小谷優介(→)も織田記念、GGと江里口の後ろで食い下がっている。「日本選手権に合わせている。悲観していない」
■モスクワ世界陸上標準記録 10.15/10.21
■突破者 2人
桐生祥秀 10.21 2012/10/5 岐阜国体
10.19 2012/11/3 エコパトラックゲームズ
A・派 10.01 2013/4/29 織田幹雄記念国際
山縣亮太 10.17 2013/4/29 織田幹雄記念国際
10.14 2013/6/7 日本選手権予選1組
 予選では1組の山縣が10秒14(+0.3)、2組は桐生が10秒28(+0.9)でトップ。山縣が今季自己最高でA標準を初突破。「今季は昨年のよかったときの走りを求めていましたが、関東インカレ後は昨年の走りを気にしないようにやってきました」。桐生はスタートのリアクションタイムが0.193秒で9人中最下位。ピストル音を頭の中で確認してから出ている。
 決勝に向けて桐生は「前半をしっかりと走って、得意の中盤から後半につなげたい」と、自分の走りに徹することを強調した。2人ともタイムに関しては明言しなかった。背中から追う風が1.5m以上吹けば9秒台の可能性はあるが、2人が勝負を意識して硬くなると難しい。
2人以外では1組の川面聡大、大瀬戸一馬、九鬼巧、畠山純、2組の高瀬慧と塚原直貴の6人が10秒3台。壮絶な混戦となりそうで、明日の走り次第で順位が変わってくる。塚原の表情が良かった。


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