日本選手権2013・日付毎展望
第1日(6月7日)編
史上初めて5m70以上3人が対決する日本選手権
海老原は2年連続日本選手権日本新なるか
新谷には“プロの走り”を期待


●女子円盤投 全種目エントリーリスト
 日本記録保持者の室伏由佳は一線から退き、今年は出場しない。昨年、室伏の連勝を10で止めた敷本愛(→)と、日本インカレで室伏の大会記録を1m21も破った高橋亜弓(↑)の対決になる。静岡では高橋が6投目に54m17をマーク。自己ベストに5cmと迫る好記録で優勝し、敷本は52m05で2m差をつけられた(日本人2位)。高橋優位の状況だが、昨年もアベレージが高かったのは高橋、日本選手権で勝負強さを見せた(37cm差で室伏に勝利)のは敷本だった。静岡で50m85の糸満みや(↑)が3位候補。自己記録を更新して勢いがある。
=陸上競技マガジン6月号記事。以下同
■モスクワ世界陸上標準記録 62.00/59.50
■突破者 なし
 昨年は室伏が5投目に52m37を投げてトップに立ったが、敷本が6投目に52m74で逆転。室伏が本気のうちに日本選手権で勝ちたい、という思いを実現させた。それで満足したわけではないだろうが、秋の全日本実業団は優勝したが50m45だった。
 高橋亜弓の関東インカレは2部で48m65。1人だけの出場で気合いが入らなかったのだろうか? 参考にはならない試合である。敷本愛の東日本実業団も51m69と、それほど良い記録ではなかった。
 静岡の結果から高橋優位といえるが、敷本も東日本実業団で「若い子たちが全体的に良くなっているなかで、自分もしっかりと記録を投げて、良い勝負をして盛り上げたい」とコメント。室伏由佳引退後の女子円盤投を牽引する気概を持っている。
 技術的には「入りが安定しないのが課題なので、体の左側を使ってしっかりと体を運ぶところに取り組んでいる」という。
 “期待優勝記録”は55m18。日本歴代4位記録を出してほしい。2006年以降の室伏由佳以外の最高記録でもある。


●男子棒高跳 全種目エントリーリスト
 標準記録を破っている3選手の争い。ロンドン五輪代表だった山本聖途(派↑)はゴールデングランプリ東京(以下GG)に優勝。風が強く記録は5m50にとどまったが、5m70以上を持つ内外6選手が参加する試合を制して自信をつけた。正確にマークを踏む助走に注目したい。荻田大樹(A↑)は4月のマウントサックで5m70に成功。これも風が強く記録は5m50だったが織田記念に優勝した。日本人で最も硬いポールを使うパワフルな跳躍に注目だ。澤野大地(B↓)は織田とGGは記録なしだったが、海外で5m60を2回跳んだ。再び世界で戦うために新技術にも取り組んでいる。
■モスクワ世界陸上標準記録 5.70/5.60
■突破者 3人
荻田大樹 5.70 2013/4/20 マウントサック・リレー
沢野大地 5.60 2013/3/15 2013 Chinese Culture University International Indoor Pole Vault Invitational meet
5.60 2013/4/20 マウントサック・リレー
山本聖途 5.65 2012/10/14 実業団・学生対抗
5.71 2013/2/3 日本ジュニア室内オープン
5.60 2013/2/23 西田・安田記念室内棒高跳湖西大会
A・ 5.74 2013/5/18 東海学生対校
 日本選手権大会史上初めて、5m70以上の記録を持つ3選手が対決する。決着は5m84の日本新を期待したい。
 山本聖途が東海インカレで5m74の日本歴代2位。かなり余裕を持ってクリアしたという。荻田大樹は関西実業団で記録なし。澤野大地は東日本実業団に5m50で優勝。日本記録への挑戦者としては山本が最有力だ。
 昨年は雨中の戦いとなりA標準が望めず、“1人しかロンドン五輪代表になれない”状況だった。今年はすでに2人がA標準を突破している。AABの組み合わせで最大3人まで派遣できるが、B標準の選手が選考されるかどうかは陸連の判断になりそう。
 荻田と山本は「3人で行きたい」と口をそろえる。澤野が5m70を跳ぶかどうかも焦点となる。


●男子3000mSC 全種目エントリーリスト
 春季シーズンは有力選手が安定しなかったが、今後につながる要素も見られた。兵庫2位の山下洸(→)はGGでは後半失速したが、序盤は日本選手でただ1人ケニア勢に食い下がった。篠藤淳(↑)はGGでは転倒してしまったが、カージナル招待で8分32秒89とB標準に迫った。武田毅(↑)は兵庫、カージナル招待、GG(8分33秒48)と徐々にタイムを上げている。優勝経験のある上記3人と、兵庫・GGとも日本人2位の松本葵(→)、までがV候補。B標準を切るレベルにしないと兵庫優勝の学生選手、山口浩勢(↑)に優勝をさらわれそうだ。
■モスクワ世界陸上標準記録 8.26.00/8.32.00
■突破者 なし
 山口浩勢が関東インカレで8分41秒93の自己新で4連勝。勢いは一番ある。関東インカレではラスト1000mが2分48秒だったが、本当に強いのは水濠を越えてからで「そこで並んでいれば勝てる自信があった」と話した。実業団選手が相手でも、そこが通用するのは兵庫で実証済みだ。
 東日本実業団で菊池昌寿が8分47秒21で日本人トップの2位。富士通長距離陣では日本代表に最も近い位置にいる、という自覚も持っていた(5000m&1万mで代表に挑戦する選手が出てきてほしい、という意味でもある)。
 松本葵は関西実業団で8分53秒03で、これは参考にならない。
 期待優勝記録はB標準の8分32秒00。なかなか記録は狙いにくい大会だが、記録を狙うしかないと思う。日本選手権で勝っておいてアジア選手権優勝(A標準資格)を狙う方法もあるが、強い選手が出てくるかどうかに左右される。
 日本選手権は勝つことが大事。それが出世にもかかわるだろう。だが、代表を出せないレベルでは世間的には認知されにくい。一般社員には「日本選手権って、毎年誰かが勝つ大会だよね」くらいにしか思われないことも肝に銘じてほしい。


●女子やり投 全種目エントリーリスト
 海老原有希(A↑)が盤石の態勢だ。織田記念で62m83と自身の日本記録を47cm更新。2位の山内愛(↑)と3位の川述優(↑)が55m台の自己新をだったが、有効試技すべてでそれを上回った。GGは60m79でロンドン五輪8位のパラメイカに13cmと肉薄。2年連続日本選手権での日本新も可能だろう。59m22の学生記録を昨年マークした佐藤友佳(↓)は、ひじの手術明けでスロースタート。58m93の的場葉瑠香(↓)も織田記念は44m64。宮下梨沙(→)はGGで日本人2位。世界選手権代表を決めた2年前(60m08で優勝し)の再現を狙う。
■モスクワ世界陸上標準記録 62.00/60.00
■突破者 1人
海老原有希 60.66 2012/11/4 西日本カーニバル
62.83 2013/4/29 織田幹雄記念国際
60.79 2013/5/5 ゴールデングランプリ東京
 海老原有希はGGの後は試合に出ていないので、上記の状況に変化はない。風に恵まれれば63m台の日本新も期待できる。
 2位争いが激戦だ。関西インカレは村上が57m38で2位の山内を5mも引き離した。手術明けの佐藤友佳は51m72で4位。間に合うか微妙な状況だ。
 関東インカレでは1年生の久世生宝が55m07で優勝。
 学生に勢いがあるが、B標準となるとやはり宮下梨沙に期待するのが筋だと思う。あるいは、佐藤が間に合ったときか。


●女子走幅跳 全種目エントリーリスト
 4年前の世界選手権代表に大学4年生の新鋭が挑戦する。兵庫では桝見咲智子(↑)が優勝したが、2位の平加有梨奈(↑)、3位の井村久美子(→)の3人が6m37の同記録。兵庫前日のマウントサックでは前回優勝者の岡山沙英子(↓)も6m37だった。4人同記録状態から抜け出したのは平加で、水戸招待に6m43(−1.1)で圧勝した(2位に32cm差)。好調の理由を「スピードが付いたことと体幹トレーニングをやり始めたこと」と兵庫の競技後に話していた。だが、GGで桝見が6m62(+3.8)と記録を伸ばし若干優位に立っている。
■モスクワ世界陸上標準記録 6.75/6.65
■突破者 なし
 桝見は九州実業団で6m30(+0.1)。調整なしで臨む試合としてはまずまずか。関東インカレは清水珠夏が6m37(+1.3)、2位の宮坂楓が向かい風1.7mで6m22だった。ひょっとする可能性が出てきた。
 東北インカレでは五十嵐が6m32(+1.8)。
 平加有梨奈の水戸の向かい風、宮坂の関東インカレの向かい風を、どう評価すべきか?
 井村、岡山の30歳台コンビが、ベテランの調整力を見せて一気に上げてくるか?


●女子10000m 全種目エントリーリスト
 新谷仁美(派↑)とマラソン代表の福士加代子(派?)が派遣設定記録を破っているが出場は流動的。吉川美香(A)が一線を退き、昨年3位の絹川愛(?)も試合に出ていない。小林祐梨子(B↓)がB標準を破っているが4月は5000mで16分かかった。兵庫は悪コンディションで日本選手権の参加標準記録が切れず。レベルが一気に下がる可能性もある。カージナル招待で31分45秒29の萩原歩美(B↑)、32分台前半だった清水裕子(→)、井原未帆(↑)、田中華絵(↑)らが今季の記録では上位となる。新たな選手が台頭するチャンスではある。
■モスクワ世界陸上標準記録 31.45.00/32.05.00
■突破者 4人
小林祐梨子 31.51.91 2012/9/21 全日本実業団
新谷仁美 31.28.26 2012/4/22 兵庫リレーカーニバル
A・ 30.59.19 2012/8/3 ロンドン五輪
萩原歩美 32.00.73 2012/9/21 全日本実業団
31.45.29 2013/4/28 カージナル招待
福士加代子 A・派 31.10.35 2012/8/3 ロンドン五輪 不出場
吉川美香 31.58.73 2012/4/22 兵庫リレーカーニバル 不出場
31.28.71 2012/6/8 日本選手権
31.47.67 2012/8/3 ロンドン五輪
 標準記録突破者は4人だが、マラソン代表となった福士加代子と、一線を退いている吉川美香は出場しない。ただ、新谷仁美が今年は5000mではなく1万mにエントリーしてきた。春のトラックには出場していないが、これは当初から予定していたこと。また、世界クロカンの不調は転倒によるもの。日本選手権にしっかりと合わせているはず。
 派遣設定記録も破っているので8位以内で代表に決定するが、「プロとしての走りを見せる」のが新谷の信条。駆け引きなどしないで、持っている力を出し切ろうとするだろう。気象条件にもよるが、30分台を国内で久しぶりに見たい、というのがファンの願い。また、ニュースに取り上げられるにも、そのレベルの記録は必要だ。
 2位争いは現時点では萩原歩美がリードしている。中国実業団は32分55秒54だったが2位に1分近い差をつけた。
 積水化学コンビも2位争いに加わるか。井原未帆が加入したことで、清水裕子が刺激を受けていれば期待できる。
 第一生命が5人エントリーし、チームとして勢いが感じられる。東日本実業団のレースぶりを見ていても、第一生命勢の積極性が目についた。スピードのある田中華絵あたりがブレイクする可能性がある。


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