2009/12/20 全国高校駅伝
須磨学園、1500m選手だけで2位に
“小さなミス”の繰り返しが敗因も
中距離ランナーによる駅伝に手応え


 優勝した豊川とは21秒差。はた目には健闘と見えた須磨学園の2位だが、長谷川重夫監督には「今日だったらチャンスがあった」と映った2位だった。
「少しのミスの繰り返しで、リードを持ってアンカーに渡せませんでした。各区間が4〜5秒ずつ良ければ、アンカーの流れが違って勝負ができました。豊川さんのアンカーの状態や、今日の風だったら20秒のリードでチャンスがあったと思います」
 そのミスを、“長距離タイプ”の選手がいたら取り返せたのかどうか……。

 小林祐梨子(現豊田自動織機。1500m日本記録保持者、5000m世界選手権決勝進出)以来、強化の中心を“スピード”にシフトさせてきた須磨学園だが、それでも毎年1人か2人は5000mを走れる選手が存在した。4位だった前回でいえば1区(区間11位)の中道早紀が、5000mで15分47秒91を持っていた。3年前の優勝時には小林が2区で20人抜きの活躍を見せたが、1区の高吉理恵(現三井住友海上)が15分50秒台の記録を持っていたし、永田幸栄も5区で15分58秒(区間2位)だった。
 その点、今年のチームは全員が1500m中心の選手たち。2位の池田睦美(2年)を筆頭に、4位の籔下明音、6位の中新井美波とインターハイでは3人入賞。籔下は日本選手権でも4位、池田は世界ユースでも6位に入賞した。日本ジュニアでは中新井と籔下で1、2位。日本ユースでは池田が優勝している。
 3000mでも上述の3人が9分20秒を切っているが、すべて9〜10月の大会である。
「ここまでは過去になかったです。1500mランナーだけで戦うのは厳しいですけど、元々1500mを強くしようとやってきました。今年はタイプ的に1500mから入る選手が多かったこともあります」

 高校ではスピード重視のメニューで選手を育成する。その狙いを詳述する必要はないだろう。距離を伸ばすことも含め、その方が卒業後に伸びしろを残す。だが、小林レベルのスピードや能力がない選手には、走り込んだ方が良いのではないか。距離の短い高校駅伝とはいえ、5〜6km区間も2つあるし、3km区間の爆発的な走りはできなくても安定した走りが期待できる。
 実際、この日のように風が強いときなどは“走り込んだ強さ”の方が力を発揮しやすい。それは長谷川監督も認めている。
「勝ちたい気持ちとの狭間ですよね。駅伝は風が吹いたり、アップダウンがあったり、中距離ランナーには不利なことばかりです。5000mに積極的に出て、長い距離の経験を積ませていったら駅伝では違ってくる。それに実業団や大学でも、ここまで応援してもらえる大会はないでしょう。ここにピークを持ってきたい気持ちもありますが、駅伝もインターハイも通過点にしないとダメだと思います。小林クラスでない選手でも、スピードを高校時代にやっておくことで大学、実業団で伸びる。小林を基準にして、そこまで強くないから長めに、とはしないようにしています。走り込みをやったらスピードが落ちます」
 昨年の中道の15分47秒91も、夏までの試合は3000m中心に走り、秋に5000mに出場してみたら“出てしまった”タイムだったという。

 須磨学園のトラックの記録重視の方針は男子でも同じ。入学した選手の自己記録をしっかりと伸ばす。男子だったら24人中22人が5000mの14分台を、女子は20人中18人が3000mの9分台を出している(1500m中心の強化をして、記録会などで3000mの記録を出すのだと思われる)。長谷川監督によれば男子の西脇工、報徳学園でも、ここまで高い確率で14分台は出していないという。選手個々が、自分の記録を高める喜びは感じることができる。
「選手みんなが1つ1つの目標をクリアしていくことでも、チームワークはできてきます。その代表として駅伝に出る選手は、中距離選手でも粘り強さを発揮します」
 今後も、あと少しで勝てないことが続くかもしれない。
「1500mランナーばかりでもここまで来て、優勝に手が届くところまで来ました。15分30秒の選手をつくるのは厳しいですけど、今日のようにミスを繰り返さなければチャンスはあります。今日のレースでそれが見えました。3回目の優勝をするための良い経験になりましたね」
 須磨学園の果敢な挑戦に注目していきたい。


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