2006/9/24 スーパー陸上
成長、または充実ぶりが確認できた4選手
@小林祐梨子
4分07秒86 今季2度目の日本新
0.01秒の更新の裏に“1人の高校生としての成長”


 前日本記録を出した国際グランプリ大阪とのペースを比較表は当日に書いた記事に掲載した。
 結果的に3周目が速くなり、800 mまでの遅れを挽回しただけでなく、0.9秒ほどの貯金を作れたことが大きかった。ただ、これは大阪と同様に、レースを引っ張ったサラ・ジェミーソンの走りに左右されただけ。レース展開よりも、スタートラインに着くまでにやるべきものができていた。
「精神面も、体調面もパーフェクトにもってこられました。大阪と同じようなリラックスしたイメージで臨めたと思います。相手も同じサラさんでしたし、挑戦者のつもりで着いていけましたね」
 結果的に0.01秒の更新。そこに、どのような意味を見出しているのだろう。大阪の記録がピークだという意見も、小林の耳に届いて気にしてしまったこともあったという。さらに、日本選手権では同タイムながら敗れてしまった。
「陸上競技の部分よりも、人として勉強させてもらいました。大阪の頃は自分の弱い部分を隠そうとしていました。生活面にしても、勉強面にしても。競技面でいえば継続してできないところがありました。気分が乗らないと練習ができないことがあったんです。ここで頑張らないと次の試合で走れない、というところで妥協してしまったり。そういった弱い部分に向かい合えるようになったことが、0.01秒に現れたと思っています」
 目標にしていたのは世界選手権A標準の4分06秒50だった。
「悔しさも後から来ると思いますが、今は0.01秒の更新がすごく嬉しい」

A沢野大地
沢野が試技内容に感じた自身の成長
イベントそのものが沢野の成長の証


 ブラッド・ウォーカー(米)との2人だけの特別試合。あらかじめ募集した中学・高校生とはいえ、ピット脇に入れた観客の目の前での試技。そして音楽をかけた中での助走スタート。観客の目を楽しませるパフォーマンス。2人だけという部分は違うが、ドイツなどで行われている街角棒高跳のイメージを持ち込んだ。
 そこで沢野大地(ニシスポーツ)の残した記録は5m70。この高さをどう評価するか。今季何度も記録している高さで新鮮さはない。日本記録とは13cmの差がある。ファンやマスコミの期待感とは勝手なもので、今季2番目の記録に物足りなさを覚えてしまう。
 しかし、沢野自身は今回の試技内容と精神状態に、自身の成長を感じ取っている。

「今日の収穫は自信と余裕でしょうか、言葉にするとしたら。(7月の遠征の最後がよくなかったこともあって)1カ月前のチューリッヒの頃は、これでいいのかな、勝てるのかなと、世界のトップ選手と戦うことに自信をもてないでいました。でも、1カ月戦って、ワールド・アスレティック・ファイナルやワールドカップでは、あの場で勝つ気持ちに確かになっていた。今日も、ブラッドの方が確実に力は上ですけど、普通に勝とうと挑んでいました。それに、昨年までなら5m60をパスするなんてあり得なかった。記録として結果には表れていませんが、ラウンドとしての戦い方はできつつある。そういったところが成長していると感じられる部分です」

 数字的に捕捉をするなら、スーパー陸上の5m70は今季6回目。6月にゲーツヘッドで跳んだ5m75(海外日本人最高)を入れると7回目だ。先ほど新鮮さがないと書いたが、そうさせること自体がすごいことだ。トータルの試合数が多いとはいえ、昨年の5m70以上は4試合だった。その高さを、1カ月の遠征から帰国直後にクリアしてみせる。「疲れはない」と沢野なら言うだろうが、疲れがないわけはない。本人が感じようとしないだけである(それが重要なのだろうが)。

 本人は言わないだろうが、今回の試合形式を提案し、実行したこと自体がすごいことだった。ウォーカーは親友で、海外遠征では食事など競技以外の時間もともにしている。そういった面でのストレスは少ないが、試合がひどい結果に終わる可能性もあった。実際、ウォーカーは5m50を3回失敗して記録なしに終わった。沢野までひどい成績だったら、観客にアピールする試合形式は、逆に悪い印象を与えて大失敗に終わる。
 冷静に考えれば二の足を踏む形式に、競技者的な自信そのままに挑戦した。棒高跳という競技特性もあるが、トップ選手でも真似のできないことだろう。記録をどうこう言う前に、今回のイベント自体が沢野の特大の成長を示している。

B久保倉里美
56秒45→56秒19、連続日本歴代2位&B標準
群馬から0.26秒の前進の裏に歩数の変更


 群馬リレーカーニバルでは56秒45、1週間後のスーパー陸上では56秒19。ともに自己新で日本歴代2位で、いずれも世界選手権B標準を突破している。しかし、群馬では「これまで一度も、400 mHを上手く走りきったことがない」と話したが、スーパー陸上では開口一番、「ハードル的にいいレースができた」と話した。久保倉里美(新潟アルビレックスRC)が何を変えた結果が、0.26秒の差になって表れたのだろう。
 スーパー陸上のコメントを紹介すると、両レースの違いが明らかになる。

「群馬とは歩数を変えました。ブロックを下げるのを普通にもどして、逆脚になるのですが、1台目までの歩数を1歩減らしました。いつも5台目以降ももたつくので、16歩を6台目まで延ばしました。7台目以降は17歩ですが、10台目まで順調に跳べたと思います。10台目を越えてからの走りは、外国選手とは比べものになりませんでしたけど。でも、いつもは5台目のあとすごく刻んでスピードが落ちていました。そこで加速感すらありました」

 今回は0.26秒の短縮だったが、新しい歩数の技術が定着すれば、記録はさらに伸びるだろう55秒89の日本記録、55秒60のA標準が見えてきた。

C池田久美子
「つながらなかった」助走&跳躍でも
6m81のセカンド記録日本最高


6m81(−0.2)−6m70(+0.1)−6m70(+0.9)−5m12(+1.6)−パス−パス

 池田久美子(スズキ)の1回目は6m81。5月に自身が出した6m86の日本記録には5cm届かなかったが、今回の記録は池田の成長を物語っている。
 昨年までセカンド記録の日本最高は6m69で、花岡麻帆(Office24)と池田の2人が持っていた。5月に6m86が出たことで、池田の5年前の6m78が単独の記録となった。今回の6m81はそれを上回ったのである。どのくらいに評価していいのかわからないが、向かい風でもある。
 さらに、池田のふくらはぎには変調もあった。
「コンディションは上手く合わせられましたが、踏み切り脚のふくらはぎに、1回目の助走前に軽くピクっと来て、2回目の踏み切りでもピクピクっと来ました」
 そういった状態にもかかわらず、2・3回目と6m70を記録した。試合数で言っても6m75以上が5試合。沢野大地の5m70ではないが、昨年までだったらすごいと認識された記録を、今季の池田は“普通の記録”と感じさせてしまう。

 数字的な評価もさることながら、池田は選手自身の感覚として、成長していることを感じ取っている。7mへの手応えは、6m86のときよりも大きくなっているという。
「今日の6m81も、それほど良い流れではありませんでした。部分、部分がつながっていなくて、ここはここ、という感じになって。脚の着くタイミングが狂っていたことが、その原因だと思います。速く走ろうという意識が強すぎると、上体が遅れてしまって重心の真下よりも前に着いてしまいがちになるんです」
 6m81は「たまたまタイミングが合っただけ」で跳ぶことができた。良い流れの助走から跳躍ができたとき、今すぐにでも6m90は出そうな予感がする。


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