2006/8/ 大阪インターハイ
小林祐梨子 日本記録保持者のインターハイ

1500m編
日本記録時よりも飛ばした理由とは?


 女子1500mは小林祐梨子(須磨学園)がスタートから飛ばした。下の表からもわかる通り、日本記録(4分07秒87)をマークした5月の国際グランプリ大阪よりも速かった。しかし、このハイペースは記録更新ではなく、“絶対に勝つ”という思いからだった。

大阪インターハイ2006 近畿インターハイ2006 国際グランプリ大阪2006
距離 通過 100m毎 300m毎 400m毎 距離 通過 100m毎 300m毎 400m毎 距離 通過 100m毎 300m毎 400m毎
100 00:15.9 00:15.9 100 00:15.9 00:15.9 100 00:16.28 00:16.28
200 00:32.1 00:16.2 200 00:32.2 00:16.3 200 00:32.42 00:16.14
300 00:48.0 00:15.9 00:48.0 300 00:48.9 00:16.7 00:48.9 300 00:49.13 00:16.71 00:49.13
400 01:04.6 00:16.6 01:04.6 400 01:05.8 00:16.9 01:05.8 400 01:05.92 00:16.79 01:05.92
500 01:20.9 00:16.3 500 01:22.6 00:16.8 500 01:22.80 00:16.88
600 01:37.4 00:16.5 00:49.4 600 01:39.7 00:17.1 00:50.8 600 01:39.57 00:16.77 00:50.44
700 01:54.2 00:16.8 700 01:56.8 00:17.1 700 01:56.25 00:16.68
800 02:11.1 00:16.9 01:06.5 800 02:14.1 00:17.3 01:08.3 800 02:12.69 00:16.44 01:06.77
900 02:28.0 00:16.9 00:50.6 900 02:31.5 00:17.4 00:51.8 900 02:29.25 00:16.56 00:49.68
1000 02:45.2 00:17.2 1000 02:48.7 00:17.2 1000 02:45.80 00:16.55
1100 03:02.6 00:17.4 1100 03:06.0 00:17.3 1100 03:02.32 00:16.52
1200 03:19.9 00:17.3 00:51.9 01:08.8 1200 03:23.6 00:17.6 00:52.1 01:09.5 1200 03:18.84 00:16.52 00:49.59 01:06.15
1300 03:37.1 00:17.2 1300 03:41.0 00:17.4 1300 03:35.29 00:16.45
1400 03:55.0 00:17.9 1400 03:57.8 00:16.8 1400 03:51.64 00:16.35
1500 04:13.43 00:18.4 00:53.5 1500 04:14.39 00:16.6 00:50.8 1500 04:07.87 00:16.23 00:49.03
2006全国インターハイ/JAAF Statistics Informationsのデータ。近畿インターハイは寺田計測。国際グランプリ大阪は日本陸連科学委員会のデータ

「日本選手権(同タイムで2位)が終わって、周りから“もう伸びないんじゃないか”とか色々と言われて苦しみもしましたが、姉とも相談して“勝った者が強い”のだと、何回も自分に言い聞かせました。勝った方が強いのだからと、過去を忘れてスタートラインに着いたんです。3000mのことよりも、まず1500mに勝とうと思って。1500mに勝つことは簡単に見えるかもしれませんが、自分にとっては難しいというか…。日本選手権に勝つのも2回目が難しかった。インターハイも2回勝ってこそ、強いと言えると思うんです。1500mは得意種目だからこそ、プライドというか、絶対に譲れないという気持ちもありました」

 その勝ちたい思いが、どうしてハイペースとなったのか。小林はラスト勝負にも強いタイプで、高校生間なら負けることはないだろう。言葉は悪いが“その辺の選手”や“ありきたりの指導者”なら、抑えめのペースで行ってラストで勝とうとしただろう。
「これまでは、ここまでついて来られたら不安になる、ということもありましたが、今回は“ついて来てみろ”という気持ちでした。日本選手権で負けたことで、気持ちを切り換えられたんです。日本選手権よりもわざと速いペースにして、自分を苦しめて、それでも“来てみろ”と強気でいきました。ゴールしたら倒れるくらいまで走ろうと」

3000m編
抑える予定だった3000mの前半を
“高校新ペース”に変更した理由とは?


 しかし、最終日の3000mに向けては、1500mほど“勝つこと”へのこだわりを持っていなかった。1500mが終わった時点で「次は世界ジュニアです」と明言した。
「3000mは後半の1500mを世界ジュニアの1500mと思って走ります」
 最初から自身の高校記録(8分52秒33)を更新するペースでは走らず、後半の1500mをどこまでペースアップできるかを試そうとしていたのだろう。

 だが、3000m決勝の小林は、最初から飛ばした。1000mが3分00秒3、2000mが5分59秒6の通過。小林にとって1000m3分はハイペースというほどでもないのかもしれないが、最後を2分50秒に上げれば、高校記録を更新できるペースだった。
 1500m同様前半を食い下がったドリカ(山梨学大附)を、中間点付近から引き離したが、最後の1000mは思ったほど上げられず、フィニッシュタイムは9分01秒37と、8分台に惜しくも届かなかった。
「残り1000mあたりで、両足の拇指球にマメができてしまいました。足をつくのも痛くて、なんやこれ、と。もしもペースが落ちていって追いつかれても、ラスト400 mや200 mで絶対に勝つつもりでいましたが、勝ててよかったです」

 予定を変えた理由については、次のように説明した。
「3000mの予選(9分30秒29=3組1位)が、逆にしんどかったというか、疲れました。スローペースになると、逆にバテてしまう感じになります。普段、後ろで走ったことがないから、そわそわしてしまって、前に行ったり下がったりするのがよくないのだと思います。前で走った方が楽ですね。最後のインターハイ最後のレースですから、気持ちよく行きたいとも思いました。3分、3分で行ってラスト1000mを2分50秒に上げられれば、世界ジュニアの1500mにも自信になると考えました」

 小林の特徴は“つま先接地”で、靴底の減り方が激しいという。冬期にクロスカントリーや駅伝などで長い距離を走っていたときは、違う動きになって、靴底もトラック・シーズン中よりも減り方が少なかった。しかし、4月後半から再び、以前の動きに戻り、1500mの日本記録更新も果たした。小林の“つま先接地”は、遅いスピードには適していない動きなのかもしれない。
「1500mに比べると後ろを気にしませず、笑顔で走れたと思います。後ろが気にならなかったので、大型スクリーンもそれほど見ませんでした。脚(の動き)を確認するくらいでした」

 小林の場合、5000mで15分30秒のレースをしたら逆に疲れてしまう、ということにならないだろうか。距離を伸ばすときは、今のスピードを維持しながら伸ばしていくのだろう。

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